二回目は大般若会ならではの動きとその意義についてお話したいと思います。
①浄道場(じょうどうじょう)
法要の冒頭に三人の僧侶が堂内を巡る浄道場は、言葉の通り場を浄めるために行われます。
これから『大般若経』を転読するにあたってふさわしい場を作り上げるためです。
いわゆる法要の下準備のようなものと思っていただければわかりやすいと思います。
三人の僧侶はそれぞれ、お香・洒水・華を堂内に撒いていきます。
そして、参加している僧侶全員で「散華の偈」と呼ばれるものをお唱えします。
散華荘厳徧十方(さんげしょうごんへんじっぽう)
「華を撒くことで、周りの世界をあまねく浄らかなものにします」
散衆宝華以為帳 (さんしゅうほうけいいちょう)
「人々がこの宝である華を撒くことで、ここを区切りとします」
散衆宝華徧十方 (さんしゅうほうけへんじっぽう)
「人々がこの宝である華を撒くことで、」
供養一切諸如来 (くよういっさいしょにょらい)
「あらゆる全ての如来たちに供養します」
写真の図は実際の経本に示されているものです。
この散華の偈を聞くと、普通のお経と異なって、節を付けてお唱えする歌のような印象を受けると思います。
実はこの節がとても独特で、上の写真のようにお経本を見ただけでは全く読めません。
私も永平寺での修行中は周りの声を真似をして、耳で覚えて練習しました。
音色がとても綺麗で、個人的にはとても好きな偈文です。
②転読(てんどく)
600巻もある『大般若経』を全て読むことはとてもすごいことだということは誰にでも分かることだと思いますが、実際にやるのはとても大変です。
例えば、日本で大般若会が習慣的に行われるようになった8世紀頃には150名もの僧侶が手分けして声を出して読んでいたという記録が残されています。(それでも一人あたり4巻と結構な量ではありますが・・・)
しかし時代が下るにつれて、変化が生まれました。
少ない人数でも『大般若経』を読むために生まれたのが、この転読という作法でした。
転読のやり方は次のとおりです。
まず、お経本を左右の肩と頭にいただき、そして「大般若波羅密多経巻第〇〇」と転読する経本の題名を唱えます。
次に様々な偈文を唱えながら、右に、左に、そして正面に向かって転読をします。
そして最後に「降伏一切大魔最勝成就(全ての魔をひれ伏し、最も素晴らしいことが成就しますように)」と力強い声で終えるのです。
実は転読のやり方や由来には諸説あるのですが、現在一般的なのはアコーディオンのようにお経本をパラパラと広げることで読むこととなっています。
一斉に天高くお経本が広がるその様子はとても華やかで、普段の法要とは違う雰囲気を感じるかもしれません。
まさに大般若会のハイライトとも言えるような転読ですが、私も皆さんの願いを祈願して代わりに転読させてもらえることがとても有り難いことと感じております。
③大般若会の意義
一年の最初に、生きている私達の願いを込める大般若会 。
科学がこれだけ進歩したにも関わらず、なぜ私達は祈るのでしょうか?
宗教は異なりますが、こんな言葉があります。
祈りは神を変えません。私を変えるのです。(シスター渡辺和子)
まさに大般若会での祈りもそうです。
この人生を神仏に任せきりではなく、自らが主役となって歩まなければなりません。
それはこれからも変わらないことだと思います。
身体健全を願うのであれば、運動や食事に気を使おうとするかもしれません。
世界平和を願うのであれば、戦争についてきちんと学ぼうと思うかもしれません。
交通安全を願うのであれば、いつもより車の運転を慌てず丁寧に意識するようになるかもしれません。
祈ることで多くの変化がこの身に生まれるのです。
祈ることは、実は今の自分を変える決意なのです。
そしてその決意を神仏に見守ってもらうことが、この大般若会の大きな意義だと私は思います。
(お寺のご祈祷札。1つ1つのご祈祷札には様々な願いが込められています)
多くの方にとって今年は有り難くない存在であるコロナの退散を祈願した大般若会となるでしょう。
多くの方が悩みを抱える中での開催となるかもしれません。
だからこそ、是非一緒に祈ってみませんか。
目に見えない祈りの力を大般若会という一つの形となって表現していく。
そして、自らの願いだけでなく、他者・世界へと幅を広げていく。
その力を画面越しから貸していただければ何よりと思っております。
Comments