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  • 執筆者の写真田中寺 龍谷山

未来に向かってまっしぐら



この3月は年度末、世間では卒業シーズン真っ盛りです。

多くの方々がそれぞれが所属している学校や会社、あるいは地域などから離れ、次のステップに向かって歩みを進めています。


私は今、曹洞宗宗務庁にある総合研究センターという場所に所属しております。

そこには全国各地のお寺から僧侶が集まっていますが、長く居ると随分メンバーも替わってしまいました。

私もセンターに所属して6年目で、東京にいることから基本的には見送る側です。

先日も同期や後輩数人がセンターを修了し、地元のお寺に戻りました。

分かっていることではありますが、当たり前だった日常が変化することにどこか寂しさを覚えるのは私だけではないでしょう。


そんな卒業シーズンに因んで、今日皆さんに紹介したい禅語があります。


「百尺竿頭進一歩」(百尺竿頭に一歩を進む)

百尺竿頭とは約30メートル、7~8階立てのビルくらいの高さのとても長い物干し竿のことです。その上で立ちながら、なお一歩進めるとどうなるでしょうか。

きっと真っ逆さまに落っこちてしまうでしょう。




この禅語では、30メートルもの高さを必死によじ登るような努力をして一定の場所に到達したとしても、さらにもう一歩進めることの大切さを説いています。

端的に言えば、「現状に満足しちゃダメだよ」という誡めの言葉です。

とても厳しいと感じるかも知れませんが、一方で人を勇気づける言葉としても知られています。


かつて私はこの言葉のように、一歩前に進めた経験があります。

それは修行に行く時のことです。

私は大学を卒業した2011年3月に福井県にある大本山永平寺に修行に行きました。

ちょうど震災の年です。

当時修行に行くことを決心していたものの、同時に不安を感じていました。

永平寺の修行が厳しいことは小さい頃から聞かされていましたし、周りからは「死ぬことはないから大丈夫」と冗談を言われても、正直笑えませんでした。


修行の志願書を出すと、永平寺からは修行の心得が送られ、修行に行く前はそれを覚えるように指示されます。

しかし、そこにはたくさんの作法やお唱えごとが記されており、見たことも聞いたこともない専門用語のオンパレードで、全く分かりませんでした。

ましてや当時の私は、曹洞宗関係の大学(例えば、駒澤大学)出身ではなかったため、周りに質問しようにも一緒に修行に行く知り合いが一人もおらず、相談すらできない状況でした。


そこで私はある本に頼ることにしました。

それが『食う寝る坐る 永平寺修行記』という本です。



永平寺の修行体験が記されたこの本は、永平寺の行持についてや作法を詳細に記されています。

まさに私にとって唯一無二のバイブルでした。

これを試験勉強するかのように必死に読みあさりました。


そしてついに永平寺に向かう日。

東京駅で東海道新幹線に乗った私でしたが、永平寺という未知なる場所へと旅立つ恐怖と絶望感に襲われていました。


駅のホームでは家族や友人も見送ってくれていました。

しかし、孤独感でいっぱいで涙がこぼれ、とても窓の外を直視することができませんでした。

とうとう新幹線は出発し、みなに別れを告げました。

その後通り過ぎていく東京の景色を眺めながら、感慨にふけていました。

東京出身の私にとって小さいころから離れることがなかった場所との別れ。

「ここに帰ってこられるのはいつなのだろう」

そう考える度に落ち込んでいました。


すると車内である音が聞こえてきました。


それは東海道新幹線の車内チャイム「AMBITIOUS JAPAN!」という曲でした。

TOKIOというアイドルグループの曲で、2003年に現在の品川駅に新幹線が開通したことを記念して、東海道新幹線の公式曲として採用された歌でした。


私が始めて聞いたのは中学生の頃、修学旅行で新幹線で聞いた時で、とても思い出深い曲でした。

私は永平寺にあがるギリギリまで持参していた携帯電話(当時はガラケー)とイヤホンを取り出しました。

そこにはお気に入りの曲がたくさん入っていて、もちろんこの曲も入っていました。


一番の歌詞を引用すると、次の通りです。

たとえて言えばロング・トレイン  風切り裂いて走るように 未来に向かってまっしぐら 突き進めば希望(のぞみ)はかなう 立ち止まらない振り返らない やるべきことをやるだけさ 逢いたくて逢いたくて たまらないから旅に出た 逢いたい人は君だけど 君なんだけどそれだけじゃない         知らない街で出逢いたい 真実(ほんと)の自分と(I get a true love)   Be ambitious!我が友よ、冒険者よ  Be ambitious!旅立つ人よ、勇者であれ  Be ambitious!         (作詞:なかにし礼)

まるで東京を離れて修行に向かう自分の背中を押し出してくれる、そんな歌詞でした。

私は何度も何度も繰り返し聞きました。

そしてひとしきり涙を流し終えた私は、迷いが少し消えていました。

「今やるべきことをやろう」

そう思い、私は永平寺から送られた心得を復習し始めました。

幸いにも私はその心得をほとんど覚えることができ、永平寺で困ることはありませんでした。



道元禅師はこの百尺竿頭進一歩について次のように述べられています。


何にも、百尺の竿頭に上て、足を放たば、死べしと思て、つよくとりつく心の有也。(中略)思いきり身心倶に放下すべし  (『正法眼蔵随聞記』)

私たちは百尺の竿頭に登ったにも関わらず、さらに一歩前に進めば真っ逆さまに落ちて死んでしまうと不安に思ってしまいます。

そこには今自分が安住しているところから離れがたい気持ちが強いからです。

だからこそ思い切ってこの体と心を投げ出す覚悟が必要だと説かれています。


振り返れば、生まれて初めて故郷である東京を離れようとしていた私は、まさに竿頭の先に立ちながら足がブルブルと震え、すくんでいました。

修行に行かないといけないと頭では理解していても、やはり不安が消えることはありませんでした。


しかし、だからこそ一歩前に進む必要がありました。

さきほどの歌詞にもあったように、今やるべきことをやり、時には前に突き進む覚悟が大切なのです。

皆さんも勇気を振り絞って前に進みたい、そう思った時はこの「百尺竿頭進一歩」を思い出して下さい。

きっとその先には新しい希望、そして未来の自分が待っているはずです。


最後に蛇足ですが、このTOKIOの車内チャイムは去年7月20日に、20年もの役目を終えて現在は違うチャイムになっています。

しかし、あのとき修行に向かう私の背中を押して出してくれたように、これからも新幹線は人々を次の街へ、次の道へと連れて行ってくれます。

そしてちょうど今日3月16日は、北陸新幹線が敦賀まで開通します。

東京から永平寺へのルートはとても行きやすくなりました。

今でも永平寺には未来に向かってまっしぐらに励んでいる修行僧たちが集っています。

是非皆さんもお参りしてみてください。




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